2005年度卒業論文要旨集の発刊にあたって


情報通信学科では数理科学科と共に3年次から学生諸君を研究室に配属し, 2年間にわたり各指導教員の専門分野について指導を行います. 各研究室で教員あるいは大学院生との深い人間的なつきあいを通じて, 学問の本質,学問の進め方,さらには人生論などについて切磋琢磨し,自ら考え, ある程度のレベルまで修得できたのではないかと期待します.

私もゼミ生との2年間にわたるおつき合いの中で種々の経験をしました. たとえば,朝夕の挨拶の仕方に関して学生諸君と言い合ったことを思い出します. 昼すぎに研究室に現れた一人の学生が私に向かって「おはようございます」と言ったのに対して, 私は「おそようございますだろう」と言い返しました. また,午後5時頃に学生の一人が私を含む研究室のメンバーに「おつかれさま」 と言って帰ろうとしたとき,疲れるほどの勉強をしないで私より早く帰る者に「おつかれさま」 と言う資格は無いだろう,と不快に思いましたので,私は「(すみませんが)お先に失礼します」 と言うべきだと主張しました.これらの挨拶言葉は日ごろアルバイト先で使っているらしく, ほとんどの学生諸君は違和感がないようでしたが, 私は私の常識に合わないと思うときには遠慮なく意見を言いました. 研究室は狭い世界ですが,お互いに思うことを腹蔵なく話し合い, 相互理解を深めることができたと思っています.

さて,学問についてはどうだったでしょうか.卒業研究を始める前に研究テーマを決めることが最初 の関門としてあります.そのために足しげく図書館に通い参考書や学会論文誌を調べたり, インターネット上で資料の検索,収集を行ったことでしょう. そして,研究課題を解決する方法を工夫することが次の関門としてあります. 先輩の論文を調べ,先行研究がどのようになされたかを知り,新しくどのような工夫を加えられそうか, 教員と一緒に考えたことでしょう.研究の道筋が見えたらゴールに向かって邁進するのみです. しかし,研究遂行のためには十分な基礎学力が必要です. 卒業研究を進めながら,それまでの下級生時代にいろいろな科目について もう少し真面目に勉強しておくのだったと反省した学生諸君が多かっただろうと思います. 簡単にゴールに到達できた人,毎日夜遅くまで頑張ってもなかなかゴールに到達できなかった人, ゴールが見えたと思ったら実は本質的な解決ができていなくて大きな壁が前に立ちはだかっていた人, といろいろだったと思います.壁の出現は研究の一時的な邪魔ですが, これは新しい研究課題の発見を意味します.壁が高ければ高かったほど貴重な経験であったと言えます. 卒業研究の経験が学生諸君の将来に役立つことを祈ります.

本要旨集は私たち学科一同の努力の結晶です. 本学科外の皆さんにも一読いただき,私どもの教育研究のあり方にご理解を賜れば幸いです.


2006年3月1日
情報通信学科長 稲垣 直樹