ところでVaught予想はどうなった?

ところでVaught予想はどうなった?

板井 昌典(東海大学 理学部 情報数理学科)


1990年代前半の幾何的モデル理論の成功は華々しく,E. Hrushovski を中心とする 数論幾何への応用は現在も継続中である.安定性理論は単純理論へとさらなる一般化が 進行中であり,多くの定理が単純理論の枠組みでも一般化されることが確認されつつある.

◇ 2002年6月にはイタリアのRavelloにて,A. Macintyreの還暦祝賀研究集会が開催された. 招待講演・連続講義の傾向は,モデル理論の数論幾何,代数幾何, 実代数幾何等へのさらなる応用の方向性を示している.

◇ 2002年7月には,フランスのマルセーユにて単純理論に関する研究集会も開催され, 活発な研究成果が発表された.


さて今夏,モデル理論における「未解決問題」に関して重要な進展があった. ひとつはVaught予想と呼ばれるもので,1961年にVaughtが提唱した.

1階の可算理論で,可算モデルを丁度ω1個もつものは存在するか?
というものである(連続体仮説は仮定しない).

もうひとつはLachlan予想と呼ばれ,「有限個の可算モデルを持つような,可算安定理論 は存在するか?」というものである.

これら二つの予想に対して,著しい進展があった.つまり

  1. R. KnightによるVaught予想に対する反例の構成(プレプリント)

  2. S. V. SudoplatovによるLachlan予想に対する反例の研究

である. 今回は,Vaught予想についてこれまでの研究を概観し,Knightの反例を概説したい. それらを踏まえて,Vaught予想の意義についても考察を加えたい.