西 村 泰 一(筑波大)     無限小の代数学
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 フランスのGrothendieckは1960年代半ばにcategory theory的視点を大々的に
 代数幾何学に持ち込み、その面目を一新したが、同じ頃アメリカのLawvereは
 微分幾何学に同様の視点を持ち込み、Riemann、Lie、Cartanといった微分幾何学
 の先達が自由に用いていた冪零無限小の使用を正当化した。これがsynthetic
 微分幾何学であり、取扱われる無限小は、nonstandard analysisとは異なり、
 可逆ではなく冪零である。この幾何学においては、Weilが1950年代に無限小
 の代数的定式化として導入したWeil代数が、可換環論が代数幾何学に対して
 果たすのと同じ役割を担うことになる。このWeil代数は、代数的にはかなり特殊
 な0次元の局所環であるが、この環とその間の局所準同型の作る圏がこの講義の
 主題となる。この圏がfinitely completeであることを示し、任意のfinite
 diagramのlimitをどのように計算するかを説明する。正統派の微分幾何学では
 、その主たる研究対象は滑らかな多様体であるが、synthetic微分幾何学では
 これの拡張にあたるmicrolinear spaceが主たる研究対象となる。正当派の
 微分幾何学ではEuclid空間から滑らかな多様体への移行は局所座標を用いて
 なされるが、synthetic微分幾何学では上記の圏におけるlimit diagramが
 この役割を担うことになり、その計算方法を確立することが、焦眉の急となる。
 ここで計算と言っているのは、与えられたdiagramの中のすべてのobjectが
 affine代数として与えられた時、そのlimitをしかるべきaffine代数として
 与えることを意味する。計算代数で中心的役割を果たしているGroebner基底
 と代数幾何学におけるelimination theoryがしかるべきalgorithmへと誘って
 くれることを示す。
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