あとがき (1部カット)

統計科学の数理的研究も将来目指せるように,事象,確率測度,確率変数等を,曖昧にしないように書いた. このために,近年微分積分学の教科書にとりいれられている数理論理学(記号論理学)の初歩を説明することから始めた.統計学の書籍では初めてであるが理解を円滑にする入り方になっている.

 市販されているほとんどの統計書において,連続型のデータに関しては,正規分布に従う場合の推測論だけを載せている.これではデータ解析としては十分でないので,観測値の従う分布が未知であっても統計解析が可能な順位に基づくノンパラメトリック法も論じた.ノンパラメトリック論は,検定と信頼区間に関して,正確な手法と漸近的な手法を紹介した.さらに,分布と外れ値に関する頑健性も解説した.独立性を仮定しない,通常の設定条件よりも緩い設定の下で,2標本のノンパラメトリック法が行えることを,6.5節で論じた.より詳しいノンパラメトリック論と多標本モデルの統計理論については,拙書『多群連続モデルにおける多重比較法』(2011)を読んでもらうとよい.

 2項分布の理論を使う比率のモデルに関する手法として,F分布を使った正確な手法とよばれている推測法が知られている.著者の最近の研究で,正確な手法とよばれている推測法は,実は正確に保守的な推測法であることが解り,すべての文献に正則条件も不足していることを発見した.自由度が0のF分布を定義することにより,うまく定義された(well-defined)F分布の上側確率と2項分布の上側または下側確率が一致していることを,補題7.5として述べた.補題7.5に対応する表現が,これまでの書籍では,明解になっていなかった.補題7.5を使って,事象と確率変数の関係を定理7.6で述べた.これによって,正確に保守的な推測法と正確な推測法について,詳細に厳密な解説を行うことができた. 第7章の最後の節で,連続モデルの場合と2項モデルの場合の漸近的な相違を述べた.2標本の一般化である多標本の比率のモデルの多重比較理論を学ぶには,参考文献の(著3), (著5), (著6)を読んでもらうとよい.

 稀におこる現象の回数はポアソン分布に従う.ポアソン分布に従う観測値のデータは,いくらでも存在し,ポアソンモデルの統計手法は重要である.しかしながら,比率のモデルに関する手法と同様に,正確な手法とよばれている推測法は,正確に保守的な推測法であり,すべての文献で正則条件も不足していた.補題8.3と定理8.4を導き,この2つの結果を介して,上記の内容の修正を,厳密に解説した.第8章の最後の節で,紹介した統計手法を使って,東日本大地震のデータを解析した.多標本のポアソンモデルの統計理論を知るには,参考文献の(著3), (著4)を読んでもらうとよい.

 筆者は,現在,離散モデルの推測法,多重比較法,ノンパラメトリック法の研究を主に行っている.これらの研究を基に,本書の第6〜8章の内容を執筆した.それらの研究成果は,日本学術振興会科学研究費補助金基盤研究(C)及び2012年度南山大学パッヘ研究奨励金I-A-2の援助を受けたことによって得られた.



西暦2012年7月
白石高章


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